レシートを撮るだけでは足りません
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レシートを撮るだけでは足りません

「電子帳簿保存法」と聞いて、こう思っていませんか。

「レシートをアプリで撮っておけば、紙は捨てていいんでしょ?」

ここが、いちばん多い誤解です。実際には撮影しただけでは要件を満たさないことがあり、逆に、そもそも撮る必要のない書類もあります。そして義務なのは3つの分類のうち1つだけ——残りは「やりたい人がやればいい任意の制度」です。

この法律の解説記事は、経理担当者向けに書かれたものが多く、読むほど不安になります。この記事では、ひとりで働く美容師の実務に絞って、「あなたが今すぐ守るべきことは何か」だけを整理します。結論からいえば、やることは3つだけで、今日30分あれば終わります。

個人事業主の美容師がひとりで抱える仕事

法律の名前がついたものって、それだけで身構えますよね。しかも「対応しないと青色申告が取り消される」みたいな怖い見出しを見かけると、余計に手が止まる。日中は指名のお客様に集中して、閉店後にSNSの投稿を考えて、そのうえで法律の条文を読む余裕なんて、正直ありません。誰も代わりに整理してくれないのが、ひとりで働くことのしんどさだと思います。だからこの記事は、条文の説明をほとんど省きました。「あなたのレシートと、あなたのメールをどう扱えばいいか」——その一点に絞っています。読み終わったら、そのまま手を動かせる形にしました。

義務なのは3つのうち1つだけ|まずここを切り分ける

電子帳簿保存法には、大きく3つの分類があります。混乱の原因は、この3つがひとまとめに語られることです。

何の話かあなたにとって
① 電子帳簿等保存帳簿を紙ではなくデータで作って保存する任意(会計ソフトを使うなら自然に該当)
② スキャナ保存紙で受け取った領収書を撮影・スキャンしてデータで保存し、紙を捨てる任意(やらなくてよい)
③ 電子取引データ保存メールやウェブでやりとりした請求書・領収書を、データのまま保存する義務
ポイント: 「レシートを撮って紙を捨てる」は②のスキャナ保存の話で、これは任意です。やらなくても違反になりません。義務なのは③だけ。ここを切り分けるだけで、不安の8割は消えます。

つまり、多くの美容師さんが心配している「レシートの撮影」は、実は義務の話ではないのです。義務なのは、あなたがメールやウェブで受け取っている書類のほうです。心当たりはありませんか。

これは全部「電子取引」=データのまま残す対象です
  • ディーラーや通販サイトからメールで届いた薬剤・材料の請求書PDF
  • 掲載サイトや広告の利用料の明細(ウェブでダウンロード)
  • 面貸し先からメールやLINEで送られてくる支払明細
  • ネットで買ったシザーや備品の注文確認メール・領収書PDF
  • アプリやサブスクのクレジットカード決済の領収書
  • 自分がPDFで送った請求書の控え

思ったより多いはずです。そして重要なのは、これらを印刷して紙のファイルに綴じるだけでは、原則として要件を満たさないという点です。ここが従来のやり方といちばん変わったところです。

紙で受け取ったレシートは、紙のままでいい

逆方向の話も整理しておきます。店頭で紙のレシートを受け取ったものは、紙のまま保管しておけば大丈夫です。

紙で受領→ 紙のまま保管でOK。撮影は任意(撮っても構わないが、紙を捨てるには要件が必要)
データで受領→ データのまま保存が原則。印刷しただけでは足りない場合がある

つまり判断基準は「紙かデータか」ではなく、「どうやって受け取ったか」です。ドラッグストアで買った備品のレシートは紙のまま、メールで届いた薬剤の請求書はPDFのまま——受け取った形をそのまま維持する、と覚えるのがいちばん簡単です。

「撮るだけ」で紙を捨てられない理由

紙のレシートを撮影してデータにし、紙を廃棄するには②スキャナ保存の要件を満たす必要があります。一般に、解像度や色の条件、いつ保存したかを証明する仕組み(タイムスタンプや訂正・削除の履歴が残る仕組み)、そして日付・金額・取引先で探せる状態、といった条件が求められます。

ポイント: スマホのカメラロールに撮りためただけでは、これらの条件を満たしません。撮ってもいいが、紙は捨てない——これが、いちばん安全でいちばん簡単な運用です。撮影は「探しやすくするための自分用の控え」と考えてください。
会計アプリで撮ったから大丈夫だと思って、1年目のレシートを捨ててしまいました。後から要件を知って青くなりましたが、幸い何も起きなかっただけです。今は撮ったうえで、月ごとの封筒に紙も入れています。捨てないだけなら、手間はゼロでした。
— ひとりで頑張る美容師の実感

なお、経費として認められる範囲そのものについては業務委託・面貸し美容師の経費一覧で整理しています。「残し方」と「経費になるか」は別の話なので、あわせて確認しておくと迷いが減ります。

紙で受け取ったレシートは、紙のままでいい

最低限やること3つ|今日30分で終わります

③の電子取引データ保存で求められるのは、大まかにいえば「勝手に書き換えられない状態で」「あとから探せるように」保存することです。ひとりで働く規模なら、次の3つで形が整います。

1
保存場所を1か所に決めるクラウドストレージやパソコンに「2026年_電子取引」のようなフォルダを1つ作る。年ごとに分ける。メールの受信箱に置いたままにしない(探せないうえ、消える)。
2
ファイル名のつけ方を決める「20260731_○○ディーラー_48000.pdf」のように日付・取引先・金額を入れる。これで検索の要件に近い状態が自分で作れる。
3
事務処理規程を1枚用意する「訂正や削除をするときの手順」を決めた紙。国税庁がサンプルを公開しているので、名前と日付を入れて保管するだけでよい。

③の「事務処理規程」で身構える必要はありません。タイムスタンプのような仕組みを導入する代わりに、ルールを決めておくという選択肢が用意されているだけです。国税庁のサイトでサンプルが配布されているので、自分の氏名と適用開始日を入れて手元に置いておけば形になります。

やりがちなことおすすめの形
メールの受信箱に入れたままフォルダに保存し直す(受信箱は探しにくく、消えてしまうおそれがある)
ファイル名が「請求書.pdf」日付_取引先_金額 に統一する
印刷して紙のファイルだけに綴じるデータも残す(紙だけにしない)
PDFを上書き保存して修正修正版を別名で保存し、元も残す

この4つを直すだけで、実務上の形はほぼ整います。特別なソフトを買う必要はありません。

小さな規模には緩和がある|必要以上に怖がらないために

「完璧にできる自信がない」と感じている方に、ぜひ知っておいてほしいことがあります。小規模な事業者には、条件を軽くする仕組みが用意されています。

5,000万円以下基準期間の売上高がこの範囲なら、税務調査でデータの提示に応じられることを前提に、検索機能の要件が不要とされる扱いがある
猶予措置相当の理由がある場合、要件どおりでなくても、データの提示・提出に応じられれば認められる扱いがある

ひとりで働く美容師の売上規模なら、多くの場合この範囲に入ります。つまり「タイムスタンプがないと違反」「検索システムを買わないと違反」ということはありません。求められているのは、聞かれたときにデータを出せる状態を保っておくことです。

ポイント: 緩和があるからといって「何もしなくていい」ではありません。データを消してしまった・どこにあるか分からないという状態は、緩和の対象外です。前の章の3つだけは、やっておく価値があります。

また、青色申告の承認がいきなり取り消されるといった話も、必要以上に恐れる必要はありません。国税庁も、保存の状況だけを理由にただちに取り消すものではない、という考え方を示しています。とはいえ、記録が無いと経費の裏付けができず、結果的に不利になるのは事実です。怖いから何もしない、が一番損という構図は変わりません。

制度の細かい条件や金額の基準は改正で変わることがあります。具体的な判断は、税務署や税理士に確認してください。この記事は「どこから手をつけるか」の地図として使っていただくのが安全です。

明日からの運用|美容師の1か月に落とし込む

最後に、実務の流れに組み込む形を示します。ポイントは「受け取った瞬間に置き場所が決まっている」ことです。あとで整理する方式は、必ず破綻します。

1
メールでPDFが届いたら、その場でフォルダへ開いた流れで保存まで済ませる。1件20秒。あとでやると溜まって手がつかなくなる。
2
紙のレシートは月ごとの封筒に入れる撮影はしてもよいが、紙は捨てない。封筒に月を書いておくだけで十分。
3
自分が出した請求書の控えもフォルダへPDFで送ったものは電子取引にあたる。送信フォルダに残すだけにしない。請求書の書き方もあわせて。
4
月末に、経費として記録する保存とは別に「いくら使ったか」を記録しておく。ここが抜けると確定申告で1年分を思い出すことになる。
5
年が変わったらフォルダを新しく作る年ごとに分けておけば、保存期間の管理も自然にできる。

④が意外と大事です。保存(法律上の義務)と、記録(確定申告のための集計)は別の作業です。PDFをきれいに保存していても、金額を集計していなければ2月に困ります。逆に集計していても、元のデータを消していたら裏付けができません。両方を、それぞれの場所に——これが結論です。

保存期間は、一般に確定申告の期限から7年が目安とされています(青色申告で欠損金がある年分は10年になる場合があります)。年ごとのフォルダと封筒に分けておけば、期間の管理で悩むことはありません。

道具の使い分けについては会計ソフト選びと使い分け、確定申告そのものの流れはフリーランス美容師の確定申告 完全ガイドで解説しています。国の記録の見え方が年々変わってきている背景は国税システム刷新と記録の残し方にまとめました。

この記事のまとめ
  • 3つの分類のうち義務なのは「③電子取引データ保存」だけ。レシートの撮影(②スキャナ保存)は任意で、やらなくても違反ではない。
  • 判断基準は「どうやって受け取ったか」。紙で受け取ったものは紙のまま、データで受け取ったものはデータのまま保存する。
  • 撮影しただけでは紙を廃棄できない。撮ってもよいが紙は捨てない、が最も安全で手間もかからない。
  • 最低限は3つ。保存フォルダを1か所に決める/ファイル名を「日付_取引先_金額」に統一する/事務処理規程を1枚用意する。
  • 基準期間の売上5,000万円以下なら検索機能の要件が不要とされる扱いや、相当の理由がある場合の猶予措置がある。過度に恐れる必要はないが、データを失うのは対象外。
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よくある質問

Q. 結局、紙のレシートは捨てていいのですか?

「撮影しただけ」では捨てないでください。紙を廃棄するにはスキャナ保存の要件(解像度や色の条件、いつ保存したかを証明する仕組み、日付・金額・取引先で探せる状態など)を満たす必要があります。ひとりで働く規模でこれを整えるのは手間が大きいので、現実的なおすすめは「撮ってもよいが紙は月ごとの封筒に入れて残す」です。封筒に入れるだけなら手間はほぼゼロで、リスクもゼロになります。

Q. メールで届いた請求書を、印刷して紙で保管していました。これはダメですか?

データで受け取ったものは、原則としてデータのまま保存することが求められます。印刷した紙だけを残してPDFを削除している状態は、要件を満たさない可能性があります。ただ、これから直せば問題ありません。過去のメールを探して、年ごとのフォルダにPDFを保存し直しておきましょう。紙のほうは、自分が見やすいなら残しておいて構いません。

Q. 事務処理規程って、何を書けばいいのですか?

「保存したデータを訂正・削除する場合の手順」を決めた文書です。誰が承認するか、記録をどう残すか、といった内容を書きます。国税庁が個人事業者向けのサンプルを公開しているので、それをもとに氏名と適用開始日を入れて手元に保管すれば形になります。ゼロから考える必要はありません。金額のかかる仕組みを入れる代わりに、ルールを決めておけばよい、という趣旨の選択肢です。

Q. LINEで送られてきた支払明細の画像も対象ですか?

取引に関する書類をやりとりしている以上、電子取引にあたると考えるのが安全です。LINEのトーク内に置いたままにせず、画像やPDFを保存してフォルダに移し、日付・取引先・金額の入ったファイル名にしておきましょう。トーク履歴は機種変更で失われることがあり、探しにくいという実務上の弱点もあります。面貸し先とのやりとりは金額の証拠になるので、とくに手元に残しておく価値があります。

Q. 保存を怠ると、青色申告が取り消されますか?

保存の状況だけを理由にただちに取り消されるものではない、という考え方が示されています。ただし記録や書類が無いと経費の裏付けができず、結果として認められない支出が出たり、税務調査で不利になったりする可能性はあります。「取り消されるかどうか」よりも、「自分の経費をきちんと主張できる状態を保つ」という観点で考えるのが実用的です。個別の判断は税務署や税理士にご確認ください。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。制度・料金・仕様の詳細は各提供元や専門家の最新情報をご確認ください。