安さで選ばれると、安さで去られる
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客単価

安さで選ばれると、安さで去られる

独立して最初につまずくのが、「いくらにすればいいのか分からない」問題です。周りに合わせて決めてみたものの、忙しいのに手元に残らない。かといって上げる勇気も出ない——そんな状態になっていないでしょうか。

この記事では、メニューと料金を感覚ではなく設計で決めるための考え方をまとめました。時間単価からの逆算、メニューを絞る理由、セットの組み方、そして決めたあとに数字で確かめるところまで、順番に解説します。

個人事業主の美容師がひとりで抱える仕事

業務委託や面貸しで独立すると、価格を自分で決められる代わりに、その責任も全部自分になります。サロン勤めのころは決まっていた料金表を、今度はゼロから作らなければならない。しかも集客もSNSも予約管理もカルテも確定申告も、同時進行です。

「高いと思われて離れられたらどうしよう」と考えると、つい相場より安く設定してしまう。でも安くすると数をこなすしかなくなり、忙しいのに残らないという一番きついループに入ります。その苦しさ、よくわかります。ここを抜けるには、勇気ではなく計算と設計が必要です。

メニュー表は「一覧」ではなく「選びやすさ」

まず前提から。メニュー表の役割は、できることを全部並べることではありません。お客様が迷わず選べるようにすることです。

こんなメニュー表になっていませんか
  • 項目が20個以上あり、どれを選べばいいか分からない
  • 「カット」「カット(学生)」「カット(指名)」など、似た項目が並んでいる
  • 単品ばかりで、組み合わせると結局いくらか分からない
  • 自分でも、どれがいちばん出ているか把握していない

選択肢が多いほど親切に見えますが、実際には迷った人は「いちばん安いもの」を選ぶか、決められずに離れます。メニューを整理するだけで単価が上がることがあるのは、このためです。

整理するときは、いきなり消そうとせず並べ替えから始めるのがおすすめです。まず直近3か月で実際に出たメニューを書き出し、多い順に並べます。すると、ほとんど出ていない項目がはっきり見えてきます。そこを「オプション」や「ご相談ください」にまとめるだけで、一覧はぐっとすっきりします。

「消すと選択肢が減って機会損失になるのでは」と不安になるかもしれません。ですが、載せていないメニューでも、ご要望があれば対応できます。一覧に並べることと、対応できることは別問題です。

目安として、お客様が最初に見る画面に並ぶのは5〜8項目までに絞りましょう。細かいオプションは、その下にまとめておけば十分です。

価格は「時間単価」から逆算する

料金を決めるとき、周りの相場だけを見ていませんか。相場は参考にはなりますが、あなたの手元にいくら残るかは教えてくれません。基準にすべきは時間単価——1時間あたりいくら生み出しているか、です。

1
ほしい月収を決める生活費+税金・社会保険の積立+事業の経費。ここから逆算します。
2
働ける時間を出す月の稼働日数×1日の施術可能時間。休憩や準備、事務作業の時間も引いて現実的に。
3
必要な時間単価を割り出す①÷②。この金額が、1時間あたりの下限ラインになります。

たとえば必要な時間単価が出たら、あとはメニューごとの所要時間×時間単価が価格の目安です。2時間かかる施術なら、時間単価の2倍。ここに材料費を足します。

所要時間価格を決める最重要の変数
+材料費薬剤代は必ず上乗せして計算する

ここで見落としがちなのが、施術以外の時間です。カウンセリング、片付け、次のお客様の準備、そして予約対応やSNS・カルテ記入といった事務作業。これらは売上を生まない時間ですが、確実にあなたの1日を使っています。②の「働ける時間」を出すときに、こうした時間を引かずに計算すると、実態より安い時間単価が出てしまいます

時間単価の計算でつまずくところ
  • 営業時間をそのまま「施術できる時間」として計算している
  • 材料費を価格に含めず、手取りを多めに見積もっている
  • 税金・国民健康保険・国民年金の積立を、ほしい月収に入れていない
  • 閑散期を考えず、いちばん忙しい月を基準にしている

とくに税金と社会保険の積立は、独立したての方がいちばん忘れやすい項目です。売上がそのまま手取りではありません。詳しくはフリーランス美容師の確定申告ガイドもあわせてご覧ください。

この計算をすると、安すぎるメニューがはっきり見えます。「人気だけど時間ばかりかかって残らない」メニューは、たいていここで見つかります。値上げの考え方は押し売りせずに単価は上げられるもあわせてどうぞ。

価格は「時間単価」から逆算する

3つの価格帯を用意する

単品の羅列をやめて、3つの価格帯にまとめると、選ばれ方が変わります。人は「いちばん安いもの」より「真ん中」を選びやすいためです。

役割設計の考え方
入口初めての方が試しやすい基本の施術だけ。ここで利益を取らなくてよい
主力いちばん選んでほしいお悩み解決までセットに。ここが客単価の柱
上位こだわりたい方向け時間と技術をしっかり。主力の価値を引き立てる役割も

価格差の付け方にもコツがあります。3つが近すぎると違いが伝わらず、離れすぎると上位が現実味を失います。入口と主力の差より、主力と上位の差を大きめにすると、主力がちょうどよく見えます。

大事なのは「主力」を真ん中に置くことです。上位があることで主力が高く見えなくなり、入口があることで初めての方も入りやすくなります。上位は必ずしも数が出なくて構いません。あることで主力が選ばれやすくなるのが役割です。

ポイント: 主力メニューには、お客様の悩みが解決するところまで入れておきましょう。「カット+トリートメント」ではなく「広がる髪をまとまりやすくするコース」のように、結果で名前をつけると選ばれやすくなります。

セットメニューは「値引き」ではない

セットメニューを作るとき、単品の合計から割り引くだけになっていませんか。それだと、ただ単価が下がるだけです。

最初はセット=お得にすること、だと思っていました。でも「カラーのあとに乾燥するのが悩み」と言われて、そのケアまで含めた形にしたら、値引きしていないのにそちらを選ぶ方が増えて。安さではなく、悩みが解決することにお金を払ってくださるんだと気づきました。
— ひとりで頑張る美容師の実感

セットの本質は「ひとつの悩みを、最後まで解決する形にする」ことです。カラーだけで終わらせず、色持ちのケアまで。縮毛矯正だけで終わらせず、家での扱いやすさまで。結果として単価も所要時間も上がりますが、お客様の満足度も上がります

ポイント: 値引きで選ばれたセットは、値引きがなくなると選ばれません。「安いから」ではなく「これで悩みが解決するから」選ばれる形にしておくと、価格を守れます。

セットの数も絞りましょう。単品を減らしてもセットが5つも6つもあれば、結局選べません。セットは2〜3種類までが目安です。

なお、値引きを入れる場合も時間単価が下限を割っていないかは必ず確認してください。人気が出るほど自分が消耗するメニューは、続けられません。

掲載媒体での「見え方」まで含めて設計する

作ったメニューは、予約サイトやSNS、店頭など、いろいろな場所に載ります。載る場所によって見え方が変わることも考えておきましょう。

とくに予約サイトは、最初の数文字で判断されます。「カット+カラー+トリートメント」より「広がる髪をまとまりやすく/カット+カラー+ケア」のほうが、悩みを持つ人に届きます。掲載の工夫はホットペッパーで選ばれるスタイル・クーポン術で詳しく解説しています。

そしてもうひとつ、クーポンや割引の扱いにも設計が要ります。新規向けの割引は入口としては有効ですが、そのまま放っておくと「初回だけ安く来る人」が積み上がり、リピートにつながりません。

ポイント: 割引は「安さの提供」ではなく「次につながる入口」として設計します。初回割引を使うなら、次回の予約につながる一言とセットに。「今回のカラーは◯週間ほどで色が抜けてきます」と伝えるだけで、2回目の来店率が変わります。

また、メニュー名や価格を変えたときは、載せている場所すべてを更新する必要があります。予約サイトだけ古い価格が残っていた、というのは意外と起こります。更新する場所をリストにしておくと安全です。

決めたら、数字で答え合わせをする

メニューは「作って終わり」ではありません。実際に運用して、数字で確かめるところまでがセットです。

1
メニュー別に見るどれがいちばん出ているか。狙った「主力」が選ばれているかを確認します。
2
客単価の推移を見る変更した前後で上がったか。客数が減っていないかもあわせて。
3
時間単価で確認する売上が同じでも、時間がかかっていれば実質は下がっています。

ありがちなのが、「人気メニュー=儲かっているメニュー」だと思い込んでいるケースです。数字にしてみると、いちばん出ているメニューが実は利益に貢献していなかった、ということは珍しくありません。

ポイント: 変えるときは一度に全部変えないこと。1つずつ変えれば、何が効いたのかが分かります。値上げを含む変更は伝え方も重要なので、値上げをしてもお客様は離れない伝え方もあわせてご覧ください。

改定するときは、いきなり全部を入れ替えないこと。既存のお客様は「いつものメニュー」で来店されるので、名前や構成が急に変わると戸惑わせてしまいます。おすすめは、新しい主力メニューを1つ足して様子を見る進め方です。数か月運用して数字が良ければ、そこを軸に既存メニューを整理していきます。

1つずつ変える場所を絞ると、効いた理由が分かる
数か月判断に必要な期間の目安

メニューと料金は、一度決めたら終わりの「看板」ではなく、数字を見ながら育てていくものです。安さで選ばれる状態から抜け出せれば、同じ働く時間でも手元に残る額は変わっていきます。

この記事のまとめ
  • メニュー表の役割は網羅ではなく「迷わず選べること」。最初の画面は5〜8項目に絞る
  • 価格は相場ではなく時間単価から逆算する。ほしい月収 ÷ 働ける時間が下限ライン
  • 入口・主力・上位の3つの価格帯にまとめ、いちばん選んでほしい主力を真ん中に置く
  • セットは値引きではなく「悩みを最後まで解決する形」にすると価格を守れる
  • メニュー名は結果で付ける。予約サイトは最初の数文字で判断される
  • 運用後はメニュー別・客単価・時間単価で答え合わせ。人気と利益は一致しない
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よくある質問

Q. メニューはいくつくらいが適切ですか?

お客様が最初に見る画面では5〜8項目、セットは2〜3種類が目安です。選択肢が多いほど迷って「いちばん安いもの」に流れるか、決められずに離れてしまいます。細かいオプションは下にまとめておけば十分です。一覧に載せていなくても、ご要望があれば対応できます。載せることと、できることは別問題です。

Q. 相場より高くしても大丈夫でしょうか?

重要なのは金額そのものより、その価格に見合う理由が伝わっているかです。所要時間・使う薬剤・解決できる悩みが明確なら、相場より高くても選ばれます。まずは時間単価を計算し、下限を割っていないか確認してください。

Q. セットメニューは値引きしたほうが選ばれますか?

値引きで選ばれたセットは、値引きをやめると選ばれなくなります。「安いから」ではなく「これで悩みが解決するから」選ばれる形にしたほうが、長く価格を守れます。

Q. メニューを変えたら客数が減りました

客数だけで判断せず、客単価と売上の合計で見てください。単価が上がって客数が少し減っても、手元に残る額が増えていることはよくあります。あわせて時間単価も確認しましょう。

Q. 値上げをするときはどう伝えればいいですか?

事前告知が鉄則です。当日いきなり新価格は避け、1か月ほど前から知らせます。詳しくは値上げの伝え方でまとめています。

Q. どのメニューが儲かっているか分かりません

メニュー別の売上と所要時間を並べると見えてきます。人気メニューが利益に貢献していないケースは珍しくありません。単価の上げ方は客単価アップの5つの工夫もご覧ください。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。制度・料金・仕様の詳細は各提供元や専門家の最新情報をご確認ください。