辞めた月から、自分で払うことになります
独立の準備というと、集客や資金のことに目が向きがちです。けれど実は、会社を辞めた瞬間から自分に降ってくるものがあります。健康保険と年金です。
これまで給料から自動で引かれていたものを、今度は自分で手続きし、自分で払う。しかも会社が半分負担してくれていた分も自分持ちになります。この記事では、何がどう変わるのか、いつまでに何をするのか、負担を抑える考え方まで、順番に整理します。
独立を決めたときに気になるのは、やっぱりお客様が付いてきてくれるか、生活していけるか、ですよね。保険や年金の話は、正直あとまわしにしたくなります。書類も専門用語も多くて、読むだけで疲れる。
そのうえ、フリーランスや業務委託になると、集客もSNSもカルテも予約管理も確定申告もぜんぶ自分ひとり。手続きに割ける時間なんてない、というのが本音だと思います。
それでもここを飛ばせないのは、手続きの期限が決まっていて、遅れると損をすることがあるからです。逆に言えば、最初に押さえてしまえばあとは毎年の流れ作業。いちばんしんどいのは最初の1回だけです。一緒に整理していきましょう。
辞めた瞬間に、何が変わるのか
まず全体像です。会社員(サロンの社員)とフリーランス(個人事業主)では、加入する制度そのものが変わります。
| サロンの社員だったとき | 独立してから | |
|---|---|---|
| 健康保険 | 健康保険(会社と折半) | 国民健康保険 など(全額自己負担) |
| 年金 | 厚生年金(会社と折半) | 国民年金(全額自己負担) |
| 保険料の払い方 | 給料から天引き | 自分で納付 |
| 将来の年金額 | 国民年金+厚生年金 | 国民年金のみ(上乗せは任意で用意) |
ポイントは2つあります。ひとつは会社が半分払ってくれていた分がなくなること。同じ収入でも、手取りに対する負担感は上がります。もうひとつは将来受け取る年金が、原則として国民年金だけになることです。
- 思っていたより保険料が高く、月々の資金繰りが苦しくなった
- 手続きを後回しにしていて、あとからまとめて請求が来た
- 「売上=自分の取り分」で計算していて、積立を用意していなかった
- 年金が将来いくらになるのか、考えたことがなかった
怖い話に聞こえるかもしれませんが、知っていれば準備できます。逆に知らないまま進むと、翌年の請求で慌てることになります。
退職後にやること、その期限
次に、実際の手続きです。期限があるものから片づけていきます。
手続きの窓口は、健康保険と年金が市区町村の役所(任意継続は加入していた健康保険の窓口)、開業届が税務署です。退職時に受け取る書類が必要になるので、離職に関する書類は捨てずに保管しておきましょう。
開業届まわりの書き方は美容師の開業届の書き方・出し方で詳しく解説しています。青色申告の申請は期限を過ぎるとその年は青色申告ができなくなるので、ここは優先度が高い手続きです。

国民健康保険と任意継続、どちらが安いか
退職後の健康保険には、大きく「国民健康保険に入る」か「前の健康保険を任意継続する」かの選択肢があります(配偶者の扶養に入れる場合もあります)。どちらが安いかは人によって変わるので、必ず比べてください。
| 国民健康保険 | 任意継続 | |
|---|---|---|
| 保険料の決まり方 | 前年の所得などをもとに自治体が計算 | 退職時の給与水準がもとになる(上限あり) |
| 変わりやすさ | 所得が下がれば翌年は下がる傾向 | 加入期間中は原則として変わらない |
| 扶養の考え方 | 家族の人数分がかかる形 | 扶養家族を含められる場合がある |
| 手続き先 | 市区町村の窓口 | 加入していた健康保険の窓口 |
一般に言われるのは、扶養する家族が多い人は任意継続が有利になりやすいこと、そして独立1年目は前年の所得が高いため、国民健康保険の保険料も高く出やすいことです。ただしこれは傾向にすぎません。
独立した年、国民健康保険の通知が届いて固まりました。前年は社員として働いていたので、その所得をもとに計算されるんですね。売上はまだ安定していないのに、請求だけは会社員時代の水準で来る。あのとき任意継続と比べておけばよかったと、今でも思います。— ひとりで頑張る美容師の実感
この「1年目は前年の所得で計算される」という仕組みは、独立直後にいちばん効いてきます。収入が落ちる時期に、いちばん高い請求が来る可能性があるということです。だからこそ、独立前の段階で試算しておく価値があります。
いちばん確実なのは、両方の窓口で「自分の場合はいくらか」を試算してもらい、数字で比べることです。想像や人づてで決めず、必ず自分の金額で判断してください。任意継続には申請期限があるため、迷っている間に選べなくなる点にも注意が必要です。
将来の備えは、任意で上乗せする
独立すると、将来受け取る年金は原則として国民年金だけになります。会社員時代のような厚生年金の上乗せがなくなるぶん、自分で備える選択肢が用意されています。
- 国民年金の付加保険料:毎月少額を上乗せして納め、将来の年金額を増やす仕組み
- 国民年金基金:自営業者向けの、年金を上乗せするための制度
- iDeCo(個人型確定拠出年金):自分で積み立てて運用し、原則60歳以降に受け取る仕組み
- 小規模企業共済:個人事業主の「退職金」にあたる積立の仕組み
これらに共通する魅力は、掛金が所得控除の対象になるとされている点です。つまり将来への備えでありながら、その年の税負担を軽くする効果も見込めます。
制度の内容・掛金の上限・受け取り方は改定されることがあり、またどれが向いているかは収入や家族構成によって変わります。加入を検討する際は、各制度の公式なご案内を確認し、必要に応じて税理士やファイナンシャル・プランナーなどの専門家にご相談ください。
保険料は「経費」ではなく「控除」
ここは間違えやすいところです。国民健康保険料や国民年金保険料は、事業の経費にはなりません。ただし所得控除として、確定申告のときに所得から差し引けます。
| 扱い | どこで申告するか | |
|---|---|---|
| 薬剤・道具・面貸し料 | 経費 | 事業の収支として計上 |
| 国民健康保険料 | 社会保険料控除 | 確定申告の控除欄 |
| 国民年金保険料 | 社会保険料控除 | 確定申告の控除欄 |
| iDeCo・小規模企業共済の掛金 | それぞれの控除 | 確定申告の控除欄 |
結果として税負担が軽くなるという意味では似ていますが、入れる場所が違うので、経費として計上してしまうと申告を直す必要が出てきます。
もうひとつ、家族の分をまとめて払っている場合も控除の対象にできることがあります。生計を同じくする家族の国民年金保険料を自分が負担しているなら、その分も申告できるとされています。見落とされやすい部分です。
大事なのは、払った証明を残しておくことです。控除を受けるには納付の記録が必要になります。届いた通知や領収書は、確定申告まで保管しておきましょう。経費と控除の整理は美容師が経費にできるもの一覧もあわせてご覧ください。
払えないときは、放置しないこと
最後に、いちばん大事なことを。売上が落ちて保険料や年金が払えない時期は、誰にでも起こりえます。そのときにいちばんやってはいけないのが、通知を開かずに放置することです。
国民年金には、収入が少ない場合の免除や納付猶予といった仕組みが用意されています。国民健康保険についても、事情に応じて分割納付などの相談ができる場合があります。いずれも申請して初めて適用されるもので、黙っていて自動的に軽くなることはありません。
- 延滞金が加算され、支払う総額が増えていく
- 保険証が使いにくくなり、医療費の負担が大きくなることがある
- 年金の未納期間が残り、将来の受給や保障に影響することがある
- 不安を抱えたまま働くことになり、判断が鈍る
払えないと分かった時点で、窓口に相談する——これが最善の一手です。窓口では「払えない」と正直に伝えて構いません。使える制度を案内してもらえます。
保険と年金は、独立の華やかな部分ではありません。それでも、安心して技術に集中するための土台です。最初の手続きさえ済ませてしまえば、あとは毎年の流れ作業になります。
なお、この記事は一般的な情報の整理です。制度の内容や金額、期限は改定されることがあり、お住まいの自治体によっても異なります。実際の手続き・判断にあたっては、市区町村の窓口、年金事務所、税理士などの専門家に必ずご確認ください。
- 独立すると健康保険・年金は自分で手続きし、会社が半分負担していた分も自己負担になる
- 期限があるものから片づける。任意継続と青色申告の申請は、遅れると選べなくなる
- 国民健康保険と任意継続はどちらが安いか人による。両方の窓口で試算して数字で比べる
- 将来の上乗せは付加保険料・国民年金基金・iDeCo・小規模企業共済。引き出せない点に注意
- 保険料は経費ではなく所得控除。入れる場所が違うので、納付の記録を残しておく
- 払えないときは放置せず窓口へ。免除や猶予は申請して初めて適用される
「先に取り分ける」を、数字で見える形に
Salon One は日々の売上入力だけで、手取りと月次の着地を自動で計算します。経費・確定申告の画面では、経費の記録から所得税・住民税・事業税の概算と積立の目安まで確認でき、申告用のCSVも出力できます。「売上=手取り」ではないことを数字で見ながら、保険料や税金の積立を先に確保する習慣が作れます。無料プランから始められます。
無料ではじめるよくある質問
Q. 退職したら、まず何から手続きすればいいですか?
期限のあるものが優先です。健康保険(任意継続を選ぶ場合は申請期限があります)、国民年金への切替、開業届と青色申告承認申請書。必要な持ち物や期限は自治体・制度によって異なるため、事前に窓口のご案内を確認してください。
Q. 国民健康保険と任意継続、どちらが安いですか?
人によって変わります。扶養する家族が多い方は任意継続が有利になりやすく、独立1年目は前年の所得をもとに計算されるため国民健康保険が高く出やすい傾向があります。必ず両方の窓口で試算してもらい、ご自身の金額で比べてください。
Q. 保険料は経費にできますか?
経費ではなく、確定申告の「社会保険料控除」として所得から差し引きます。結果的に税負担は軽くなりますが、計上する場所が違います。納付の記録は保管しておいてください。
Q. 年金は国民年金だけで大丈夫ですか?
独立後は原則として国民年金のみになります。付加保険料・国民年金基金・iDeCo・小規模企業共済などで上乗せする選択肢がありますが、途中で引き出せないものもあるため、手元資金に余裕を持ってから検討するのが安全です。具体的な判断は専門家にご相談ください。
Q. 売上はあるのに、お金が残りません
税金・国民健康保険・国民年金の分を先に取り分けていない可能性があります。売上は手取りではありません。フリーランス美容師の確定申告ガイドで、必要な備えの考え方をまとめています。
Q. 保険料が払えないときはどうすればいいですか?
放置せず、早めに窓口へご相談ください。国民年金には免除や納付猶予の仕組みがあり、国民健康保険も事情に応じて相談できる場合があります。いずれも申請が必要で、放置すると延滞金が増えていきます。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。制度・料金・仕様の詳細は各提供元や専門家の最新情報をご確認ください。